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矢沢宰 4
 第4話 空との対話

 

      空への告白


      私は来るのを待っています。

      青い間から

      大手をひろげて私を抱きあげてくれるものを待っています。

      ねてもおきても窓を開けはなって

      祈るようにほおづえをついて

      いつも空ばかり見つめています。

      それより他に方法はないんだと思っています。

      あんまり一面に青い日は

      私は悲しくて口笛や歌ばかり歌って何も考えまいとします。

      それは青さがあまりにもはてしなく

      待つことしか知らない私があわれに無力になってしまうのでヤケに

       なるからです。

      どうして私は待つことしか知らないのでしょう。

      待つことは悪いことでしょうか。

      自分でもわからないのです。

      私は乞食かもしれません。

      空を見つめて肉の切れはしが落ちてくるのを悲しんだり胸をときめ

       かして待っている

      最もいやしい怠け者の乞食かもしれません。


遺稿詩集『光る砂漠』の中で、「空」に関連する言葉、あるいは空の情景を謳った作品を調べると、54篇中20篇が該当します。矢沢宰が、ここまで空のモチーフを謳った理由は何なのか。それは永遠的なもの、遥かなものへの憧れだけではないでしょう。長期に亘った入院のために、彼がいかに仰臥(ぎょうが)の生活を強いられたかが伺われます。

絶対安静の身動きできない姿勢で彼はひたすら空を見つめ続けたのです。空との対話の中から、矢沢宰の詩が生まれたといっても過言ではないでしょう。

この詩を読むと、社会で暮す一般の健康人に対して、彼が気後れする感情を持っていたことが察せられます。病に侵された身体のために人生設計が叶わず、努力しようにもできない、ジレンマ。ただ幸運を待っているだけの、病弱で無力な身をふがいなく感じています。

私は乞食かもしれません。/空を見つめて肉の切れはしが落ちてくるのを悲しんだり胸をときめかして待っている/最もいやしい怠け者の乞食かもしれません。〉と、自虐にも等しい煩悶(はんもん)は、矢沢宰の魂からの叫びを物語っています。


 

      赤いつる


       赤い薬包紙でつるを折る。

       ガラスの外には、

       秋の寒い雨が音を立てて流れ降る。

       血色の悪い指先に、

       赤い薬包紙の影がうつる。

       さあ出来た。

       赤い小さなつるが出来た。

       このつるにも、

       昔、神が人間を作った時のように、

       私の熱い息を吹きかけ、

       私の魂を分けあたえようか、

       いやいやそれよりも、

       となりの部屋の、

       カリエスを病む

       幼い女の子にあげよう。


 

矢沢宰の主治医であった吉住昭氏は、この作品について以下のように触れています。


この赤い薬包紙というのはどういうことを意味するか、決して赤色紙の代わりをしているわけではないのです。痛み止め、劇薬、その他光を遮る必要のある薬を赤い薬包紙に包んでいたのです。彼が、赤い薬包紙を一枚入手したということは、今日も激痛に襲われたということなのです。今日も激痛に襲われて、それで赤い薬包紙の薬を一服飲まなければならなかった。しかし、その痛みの治まったときに、彼はそれを使って鶴を折って、隣の部屋の幼い女の子にあげようと言っているのです。彼の心の優しさがにじみ出ていると私は思うのです。彼の日記編の中に、ある年看護婦さんが年賀状を配ったら、一人だけ年賀状の来ない子がいた。自分は差出人の名前を書かないで年賀状をその子に書いてやった。その女の子は、夜になってもまだそれを見ていたという場面があります。本当に彼はそういう少年でした。

                    吉住昭講演「追想の-光る砂漠-矢沢宰」


                               (この稿続く)




| 矢沢宰 | 13:04 | comments(0) | trackbacks(0)
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