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吉野弘 2 祝婚歌 


     祝婚歌        吉野  弘

 

     二人が睦まじくいるためには

     愚かでいるほうがいい

     立派すぎないほうがいい

     立派すぎることは

     長持ちしないことだと気付いているほうがいい

     完璧をめざさないほうがいい

     完璧なんて不自然なことだと

     うそぶいているほうがいい

     二人のうちどちらかが

     ふざけているほうがいい

     ずっこけているほうがいい

     互いに非難することがあっても

     非難できる資格が自分にあったかどうか

     あとで

     疑わしくなるほうがいい

     正しいことを言うときは

     少しひかえめにするほうがいい

     正しいことを言うときは

     相手を傷つけやすいものだと

     気付いているほうがいい

     立派でありたいとか

     正しくありたいとかいう

     無理な緊張には

     色目を使わず

     ゆったり ゆたかに

     光を浴びているほうがいい

     健康で 風に吹かれながら

     生きていることのなつかしさに

     ふと 胸が熱くなる

     そんな日があってもいい

     そして

     なぜ胸が熱くなるのか

     黙っていても

     二人にはわかるのであってほしい

                      詩集『風が吹くと』1977年

 

作者の姪の結婚式に出席できなかったので、代わりに書かれた詩だそうです。

タイトルが、結婚を祝する歌となっているのは、そのためです。クチコミでかなり広まり、結婚式でこの詩の一節を耳にされた方もおられるのではないでしょうか。

解説は不要でしょう。ゆったりと朗読すれば、詩のエッセンスが無理なく心に沁み込んで来ます。


〈正しいことを言うときは/少しひかえめにするほうがいい/正しいことを言うときは/相手を傷つけやすいものだと/気付いているほうがいい〉とは、年を取ると説教好きになりやすい私自身の自戒の言葉として受け止めています。

結婚式の時だけでなく、夫婦喧嘩の薬にもなるかも知れません。特に、〈互いに非難することがあっても/非難できる資格が自分にあったかどうか/あとで/疑わしくなるほうがいい〉とは、肝に銘じる言葉かも知れません。


詩の終わりで、〈生きていることへのなつかしさに/ふと 胸が熱くなる〉とありますが、この詩を読む読者の胸も、きっと熱く潤っているに違いありません。

なお、この詩にまつわるエピソードがあります。この詩のファンに女性弁護士がおられて、離婚調停の際に、夫婦がどうしても別れたいのかどうかを見極めるため、この詩を読ませるそうです。


そして、少しでも思い直す兆しがあれば、離婚を思いとどまらせるということでした。

この話を聞いて、詩の力はかくも威力があるものかと感心した覚えがあります。

「祝婚歌」は作者の名は知らないが、結婚式で朗読されるのを聞いたことがあると言われるくらい、ポピュラーな作品です。その著作権について、吉野先生の(ふところ)の深さを知る対談がありました。

 

早坂 吉野さんは「祝婚歌」を「民謡みたいなものだ」とおっしゃっているように聞いたんですけど、それはどういう意味ですか。

 

吉野 民謡というのは、作詞者とか、作曲者がわからなくとも、歌が面白ければ歌ってくれるわけです。だから、私の作者の名前がなくとも、作品を喜んでくれるという意味で、私は知らない間に民謡を一つ書いちゃったなと、そういう感覚なんです。

 

早坂 いいお話ですね。「祝婚歌」は結婚式場とか、いろんなところからパンフレットに使いたいとか、随分、言って来るでしょう。 ただ、版権や著作権がどうなっているのか、そういうときは何とお答えになるんですか。

 

吉野 そのときに民謡の説を持ち出すわけです。 民謡というのは、著作権料がいりませんよ。 作者が不明ですからね。こうやって聞いてくださる方は、非常に良心的に聞いてくださるわけですね。だから,そういう著作権料というのは心配はまったく要りませんから....

 

早坂 どうぞ自由にお使いください。

 

吉野 そういうふうに答えることにしています。

 

     早坂茂三『人生の達人たちに学ぶ〜渡る世間の裏話』(東洋経済新報社)

                              (この稿続く)


| 吉野 弘 | 12:05 | comments(2) | trackbacks(0)
コメント
先日たまたま観たNHKのニュースで吉野弘さんの詩を知りました。

祝婚歌、夕焼け
何度読んでも涙があふれます。
こんなことは初めてです。
| 典子 | 2014/02/01 11:13 AM |
私は詩に携わるようになって、今年でかれこれ40年近くになりますが、詩を読んで泣いたことは、数えるほどしかありません。

ですから、吉野先生の作品を何度読んでも涙が流れるとおっしゃる典子さんは、本当に豊かな詩的感性の持ち主なのだとうらやましく思います。

またそれは故人への最良の供養でもあるのではないでしょうか。

このブログでも吉野先生の作品を取り上げましたが、追悼の意を込めて、改めて稿を立てるつもりです。
引き続き、ご愛読をよろしくお願いします。
| toshi | 2014/02/01 9:11 PM |
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