星を動かす少女


       星を動かす少女       松田明三郎(あけみろう)


     クリスマスのページェントで、

     日曜学校の上級生たちは

     三人の博士や

     牧羊者の群や

     マリヤなど

     それぞれ人の眼につく役を

     ふりあてられたが、

     一人の少女は

     誰も見ていない舞台の背後にかくれて

     星を動かす役があたった。

 

     「お母さん、

      私は今夜星を動かすの。

      見ていて頂戴ね  

 

     その夜、堂に満ちた会衆は

     ベツレヘムの星を動かしたものが

     誰であるか気づかなかったけれど

     彼女の母だけは知っていた。

     そこに少女のよろこびがあった。

クリスマスにちなんだ、この作品については、恩師・安西均先生が詩文形式で詳細な解説を添えていますので、ご紹介します。

 

      少女は星を動かした

             ある「詩の教室」で

                        安西  均

 

     イエス・キリストの誕生は、紀元元年十二月二十五日。

     さう信じられてきたけれど、実は不明なのです。

     私は、紀元前四年頃に生まれ、紀元三○年に処刑された、

     といふ学説に従ひます。だから三十数年の生涯です。

 

     それはともかく、降誕祭前夜(クリスマスイブ)は子供には楽しいもの。

     教会では日曜学校の生徒たちで、劇を行ったりします。

     次の詩は松田明三郎さんの「星を動かす少女」。

     日曜学校のその児童劇で、上級生たちには、

     マリヤ・羊飼たち・三人の東方の博士など、

     みんな人目につく主要な役を振り当てられるのに、

       一人の少女は

       誰も見ていない舞台の背後にかくれて

       星を動かす役があたった。

     イエスの父になる大工ヨセフと、その妻マリヤは、

     ガリラヤ州ナザレの住民ですが、ローマ帝国が行った

     人口調査のため、ユダヤ州ベツレヘムに来てゐました。

     滞在中にマリヤが出産。でも旅籠(はたご)に部屋がなく、

     生まれたばかりの赤ん坊は、布にくるまれ、

     飼葉桶(かいばおけ)の中に寝かされたと、聖書は書いてゐます。

     その時、近くの野にゐた羊飼たちに天使が現れ、

     救世主(すくひぬし)がお生まれになった、このお方こそ主イエスだ、

     と告げた。聖書の「ルカによる福音書」にあります。

     また、遠い東の国から三人の博士がやってきて、

     みどり児イエスを拝みますが、彼らを導いたのが星!

     松田さんの詩の星とは、舞台の上を渡るこの星です。

 

     さて、日曜学校から帰り、少女はいそいそと告げます。

       「お母さん、

       私は今夜星を動かすの。

       見ていて頂戴ね  

     どうでせう、この女の子のかはいらしさ、純真さは。

     劇では人目につく役ではないが、舞台裏にゐて、

     銀紙づくりの大きな星を動かす。その誇らしさ!

       その夜、堂に満ちた会衆は

       ベツレヘムの星を動かしたものが

       誰であるか気づかなかったけれど、

       彼女の母だけは知っていた。

       そこに少女のよろこびがあった。

    アーメン。(これはヘブライ語で、もとの意味は

    「まことに」とか「確かに」といふのです)。


安西先生の言葉遣いが旧かなづかいであるのは、先生が明治生まれというわけではなく、詩人独自の美学だと私は思っています。


作者の松田明三郎(明治27年1月1日〜昭和50年2月9日)は、聖書学者、牧師で聖書から題材を取った多くの作品があります。

聖書の中に、「小さき者だから、神により深く愛される」という意味の言葉があります。
小さき者=この詩では主役ではない、最も目立たない端役ということになりますが、自分の仕事の価値を認めてくれている母親が、少女にとっては神様のような温かい存在であるのでしょう。

誰にも知られず、社会の片隅で誠意を尽して仕事をしている者への、作者からのエールであると解釈することもできます。信仰に裏打ちされた詩であることを思います。

「ある詩の教室」というのは、東京・新宿の朝日カルチャーセンターの安西教室を指します。安西先生は70代で重い病に倒れ、晩年はホスピスで過ごされました。そこでスタッフから「安西さんはクリスチャンですか?」と問われると、片目をウインクして「半分だけ」と答えたエピソードが伝わっています。これは、先生のダンディズムの発露なのでしょう。

キリスト教の信仰を持っている詩人達が集って、「日本キリスト教詩人会」(今年で創立20周年)という団体が立ち上げられた時、初代の会長になっています。

 【メモ】安西 (ひとし) 1919年、福岡県生。元日本現代詩人会会長。元朝日新聞記者。1983年、詩集『暗喩の夏』(第1回現代詩花椿賞)。1988年、詩集『チェーホフの猟銃』(第7回現代詩人賞)。1994年没、享年74歳。



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