長田弘 2
第2話 詩はすっぱい真実


       梅干しのつくりかた


        きみは梅の実を洗って
        いい水にゆったりと漬ける。
        苦味をぬいてよく水を切る。
        塩をからませて瓶につめる。
        押し蓋をして重石する。
        紙をかぶせ紐できっちりとしばる。
        冷たくて暗いところにおく。
        ときどき瓶をゆすってやって、
        あとは静かに休ませてやる。
        やがて、きれいに澄んだ水が上がってくるだろう。
        きみは瓶の蓋をあけて、
        よくよく揉みこんだ赤じその葉に
        澄んだ梅酢をそそぐ。
        サッと赤くあざやかな色がひろがってくる。
        梅の実を赤い梅酢で、
        ふたたびひたひたにして重石する。
        紙をかぶせ紐できっちりとしばる。
        そしてきみは、土用の訪れるのを待つのだ。
        雲が切れて暑い日がやってきたら、
        梅の実をとりだして笊にならべる。
        きみは梅に、たっぷりと
        三日三晩、日差しと夜露をあたえる。
        梅の実が指にやさしくなるまでだ。
        きみの梅干しがぼくのかんがえる詩だ。
        詩の言葉は梅干しとおなじ材料でできている。
        水と手と、重石と古い知恵と、
        昼と夜と、あざやかな色と、
       とても酸っぱい真実で。



詩の作り方は一見、料理の手順、レシピを追っていくように思われます。
しかし、所々にそれとなく、切れ味鋭い言葉が挿入され、詩的緊張感を高めながら味わう詩法で構成されています。
作者の究極のメッセージは、終結部の〈詩の言葉は梅干しとおなじ材料でできている。/水と手と、重石と古い知恵と、/昼と夜と、あざやかな色と、/とても酸っぱい真実で。〉にあります。

梅干しの作り方を借りて、詩作の心構えを語る優れたテクニックの作品です。
何といっても、〈すっぱい真実〉が絶妙な表現でしょう。「すっぱい」も「真実」も見慣れた言葉ですが、それを組み合わせると不思議な意味が立ち上って来ます。詩というものは、こんな技法から生まれて来るのです。

作中の〈あざやかな色〉とは、豊かなイメージを比喩しています。また〈重石〉とは、詩の言葉は時間をかけて、ワインのように寝かせ、熟成させて生まれるという(たと)えです。


       かぼちゃの食べかた


       よくもまあ言われたものさ。
       かぼちゃに目鼻。
       かぼちゃ式部とっぴんしゃん。
       かぼちゃが嚔したようなやつ。

       うすらかぼちゃのとうなす野郎。
       ぶらさげようと
       ふりまわそうと
       かぼちゃ頭には知恵はない。

       何は南京とうなすかぼちゃ。
       訳もかぼちゃもありゃしない。
       こころひねたこと言う
       土手かぼちゃ。

       どいつもかぼちゃの当り年。
       てんで水っぽくてまずくって
       貧しいうらなり。
       道理でかぼちゃがとうなすだ。

       よくもまあ言われたものさ。
       悪態ばかり。
       つまりは、
       かぼちゃがかぼちゃであるためさ。

       かぼちゃはかぼちゃだからかぼちゃだ。
       かぼちゃはたっぷりと切って煮る。
       ほとほとと中火で煮る。
       美辞麗句いっさいぬきで。



       ふろふきの食べかた


       自分の手で、自分の
       一日をつかむ。
       新鮮な一日をつかむんだ。
       スがはいっていない一日だ。
       手にもってゆったりと重い
       いい大根のような一日がいい。

       それから、確かな包丁で
       一日をざっくりと厚く切るんだ。
       日の皮はくるりを剥いて、
       面とりをして、そして一日の
       見えない部分に隠し刃をする。
       火通りをよくしてやるんだ。

       そうして、深い鍋に放り込む。
       底に夢を敷いておいて、
       冷たい水をかぶるくらい差して、
       弱火でコトコト煮込んでゆく。
       自分の一日をやわらかに
       静かに熱く煮込んでゆくんだ。

       こころさむい時代だからなあ。
       自分の手で、自分の
       一日をふろふきにして
       熱い器でゆず味噌で
      ふうふういって。

いずれもレシピと詩の言葉が交互に織りなす一貫した作法です。表現は平易で解説は不要でしょう。どの行がレシピで、どの行が詩の言葉であるかを探すのも一興です。

【メモ】長田 弘 19391110 - 201553
詩人、児童文学作家、文芸評論家、翻訳家。
福島県福島市生。福島県立福島高等学校、早稲田大学第一文学部卒業。同大在学中の1960年、詩誌「鳥」を創刊。雑誌「現代詩」「詩と批評」「第七次早稲田文学」の編集に加わる。1965年に詩集『われら新鮮な旅人』
でデビュー。以来詩人として活躍。代表作は児童向けの散文詩集『深呼吸の必要』であり、ロングセラーとなった。詩集の他には評論、エッセイなどの著書がある。
1971 - 1972年までアイオワ大学国際創作プログラム
客員詩人を務めた。NHKのオピニオン番組『視点・論点』にも出演。読売新聞の「こどもの詩」の選者を、死去した川崎洋に代わって200412月から20155月まで務めた。
201553日、胆管癌のため東京都杉並区の自宅で死去。享年75歳。死去前日まで仕事を続けていたという。アメリカ文学者で早稲田大学教授の青山南は弟。       (ウェブ百科事典「ウィキペディア」を基に記す)
                                                          (この稿完)




 
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